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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2291号 判決

控訴人

中村杢二

被控訴人

静岡県

右代表者知事

山本敬三郎

右訴訟代理人

御宿和男

外六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決事実摘示の請求原因一項ないし六項中、満年令の計算方法を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

二右事実及び〈証拠〉を総合すれば、静岡県教育委員会は、従前から「教職員の優遇退職実施要綱」を定め、退職を勧奨された教職員がこれに応じて年度末である三月三一日に退職した場合には、退職手当につき特別の優遇措置を講じてきたものであるが、右要綱においては勧奨の対象者と退職時において「六〇才以下の者」(正確に表現すれば六一才未満の者)と定めているため、三月三一日において満六〇才に達する者が当該年度における勧奨に応じなかつた場合には、翌年度末においては勧奨の対象者とならず、退職手当につき優遇措置を受けることができないものとして実施されていたこと、右実施要綱の運用に当り、四月一日出生の者は三月三一日に満六〇才に達するものとして従来から取扱われ、本件の場合も控訴人はその該当者とされ、同人につき格別例外的な取扱いがされたものではなかつたことが認められる。

ところで、控訴人は、明治四五年四月一日出生の同人が満六〇才に達するのは、昭和四七年三月三一日の満了によるものであるから、出生日の前日である同年三月三一日でなく、同年四月一日であり、同人が昭和四八年三月三一日に退職するに際しては勧奨退職の取扱いがなされるべきであつたと主張する。しかしながら、明治四五年四月一日生れの者が満六〇才に達するのは、右の出生日を起算日とし、六〇年目のこれに応当する日の前日の終了時点である昭和四七年三月三一日午後一二時であるところ(年令計算に関する法律・民法第一四三条第二項)、日を単位とする計算の場合には、右単位の始点から終了点までを一日と数えるべきであるから、右終了時点を含む昭和四七年三月三一日が右の者の満六〇才に達する日と解することができる。したがつて、静岡県教育委員会が控訴人は昭和四七年三月三一日に満六〇才に達するものと解し、昭和四六年度教職員の優遇退職実施要綱により昭和四六年度末(昭和四七年三月三一日)に退職しなければ昭和四七年度以降勧奨退職による優遇措置を行なわない旨昭和四七年三月一八日に控訴人に通知し、控訴人において同年度末に右勧奨に応じて退職せず、昭和四七年度末である昭和四八年三月三一日に至り依願退職するに際しては、退職勧奨ないしこれによる優遇措置をとらなかつたとしても、それは何ら違法、不当ではない。

以上のとおりであるから、控訴人の前記主張を前提とする本訴請求はすべて理由がないことに帰し、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(外山四郎 篠原幾馬 鬼頭季郎)

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